インボイス制度の抜け道?上手に使おう『簡易課税制度』と『経過措置』
インボイス制度は、免税事業者にとっては損するだけ?
何か対策はないの?
少しでも得する方法が知りたい!
インボイス制度の概要は前回、ご説明しました。
免税業者にとっては、消費税の負担がまるまる乗ってくるので、負担感大きいですよね…。
「いやだ!なんでもいいからお得になるような抜け道はないの!?」
はい、あります^^
といっても抜け道ではないですよ。きちんとした制度です。
今回はそれらの制度について、ご紹介したいと思います。
《30秒でわかる、この記事の内容》
免税業者が、インボイス制度によって新たに課税事業者になる際、取り得る対策は2つ。
①簡易課税制度の採用
②経過措置
①の簡易課税制度とは、実際の消費税額ではなく、『みなし』で消費税を課税する制度。
それぞれの業種によって課税率は変わります。
例えば、卸売り業者は仕入率90%でカウントでき、飲食業は40%です。
この制度をうまく使えば、消費税の大きな節税が可能です。
しかしながら注意点もあります。
詳しくは記事をご覧下さい。
また、②の経過処置は、政府が設けているもので、免税業者の請求書でも一定程度、仕入税額控除を認めるものです。
この経過処置は最大で6年間。
控除額は、徐々に減少していきます。
いずれにしても、うまく利用すれば有利に働きますので、気になる方はぜひ続きを読んでみてください!
今回の内容
- 結論:免税業者ができる2つの対策
- 対策1.簡易課税制
①簡易課税制度とは?
②どう使う?課税率早見表
③登録のスケジュールと注意点 - 対策2. 経過処置
①経過処置は最大6年間
②取引相手との交渉・理解が大切 - まとめ
免税事業者の方で、インボイス制度により課税事業者にならざる得ないという方は、ぜひ確認して頂いて、少しでも有利に進められるように準備していきましょう!
「自分はインボイス制度に申請すべき?」「インボイス制度って、そもそも何?」という方は、ぜひ前回の記事を先に読んでみてくださいね。
⇒インボイス制度って何?【うちも登録すべきなの?にお答えします!】
結論:免税事業者ができる2つの対策
早速結論です。
免税業者ができる対策は以下の2つです
免税業者ができる2つの対策
①簡易課税制度の利用
②経過処置の利用
①の簡易課税制度は、免税事業者でなくとも利用できる制度です。
利用した方がお得なケースもありますので、次からぜひ確認してみてください。
対策①簡易課税制度
簡易課税制度とは
簡易課税制度とは、中小事業者の納税事務負担に配慮する観点から、事業者の選択により、売上げに係る消費税額を基礎として仕入れに係る消費税額を算出することができる制度です。
国税庁WEBサイトより
ようするに、『消費税の計算って大変だから、その業種ごとにザックリ計算をして、それで納めてもいいよ」って言う制度です。
そして、ここでポイントとなってくるのが、業種ごとの仕入原価。
例えば、卸売業者の仕入れ原価と、プログラマーの原価ってかなり違いますよね。
卸業者はどうしても商品を仕入れる必要があるので、その仕入原価は大きくなりがち。
一方、プログラマーはスキルがモノを言うので、仕入れはほとんどありません。
卸業者の仕入れにかかる原価は大きくて、プログラマーの仕入れにかかる原価は小さい。
なので、卸業者は売上の90%仕入れにかかったことにして、プログラマーは50%にしとこう、って感じに、この制度ではザックリとした業種ごとの仕入原価率を決めています。
それによって、「業種ごとのだいたいの仕入原価で消費税を計算しようよ。1回1回計算するより、その方が簡単でしょ?」というのがこの簡易課税制度なんです。
(はい、雑な説明です。すみません><)
そして、この制度を利用するには、事前に申請が必要というわけなのですが、実際にどういう風に有利に利用できるのか、次で具体的に見ていきましょう。
簡易課税制度をどう使う?早見表で確認!
簡易課税制度では、それぞれの業種ごとに『みなしの仕入れ率』が決められています。
以下が早見表です。
この表を見ながら、実際簡易課税制度を利用した場合、どんな風に有利になるのでしょうか。
具体的に数字を使ってみてみましょう。
先ほどの卸売業者の例でみてみます。
実際の仕入れが300万円で、その売り上げが500万円だった場合の消費税を考えます。
通常で消費税を納める場合
売上で貰った消費税は50万円(売上500万円×10%)です。
一方、仕入時に支払った消費税は30万円(仕入原価300万円×10%)となります。
納税する金額は、『売上時の50万円』-『仕入時の30万円』=20万円。
では次に、卸売業者が簡易課税制度を利用していたら、どう変わるでしょうか。
先ほどと同じく、実際の仕入れが300万円で、その売り上げが500万円だった場合の消費税を考えます。
先ほどと違い、簡易課税制度を利用します。
卸売業者が簡易課税制度を利用した場合、みなし仕入れ率は『90%』です。
これは、「売上の90%位は仕入に使ってるよね」とみなしているわけでね。
簡易課税制度を利用して消費税を納める場合
売上で得た消費税は、同じく50万円(売上500万円×10%)です。
一方、仕入時に支払った消費税は、簡易課税制度のみなし仕入れ率に基づくので、
売上500万円×90%=450万円(仕入原価)
仕入原価450万円の10%=45万円(みなし消費税)
納税する金額は、『売上時の50万円』-『みなし課税45万円』=5万円。
いかがでしょうか。
比べて頂くと分かりますが、
通常の場合:納税消費税は、20万円。
簡易課税制度の場合:納税消費税は、5万円。
その差、15万円にもなりますね。
これを利用して節税することが、インボイス制度の対策の一つになるというわけです。
しかしながら、必ず消費税が節税できるというわけではありません。
卸売業者とプログラマーでは仕入原価が全く違うように、それぞれの業種ごとで『みなし仕入れ原価』が決められています。
ですので、業種によっては増税になってしまうケースもあります。
改めて先ほどの表で、それぞれの業種別のみなし仕入れ原価率について見てみましょう。
先ほどと全く同じ例で、今度はプログラマー(サービス業)の場合はどうなるか見てみます。
表によると、プログラマーはサービス業に当たるため、みなし仕入れ率は50%ですね。
簡易課税制度を利用して消費税を納める場合
売上で貰った消費税は、同じく50万円(売上500万円×10%)です。
一方、仕入時に支払った消費税は、簡易課税制度のみなし仕入れ率に基づくので、
売上500万×50%=250万円(仕入原価)
仕入原価250万円の10%=25万円(みなし消費税)
納税する金額は、『売上時の50万円』-『みなし課税25万円』=25万円。
なんと、本来納める額よりも5万円も多く納める羽目になりました
という感じで、ご自身の商売や状況をよく考えて利用する必要がありそうですね!
③登録する条件2つとスケジュール、そして注意点
最後に、インボイスに合わせたスケジュールと利用する際の注意点についてお伝えします。
まず最初に、簡易課税制度を登録するための条件が2つあります。
①年間課税売上が5,000万円以下であること
②事前に、簡易課税の選択の届出を行うこと
①の条件についてですが、前々年の年間売上で判定します。
なぜなら、消費税は、売上を上げた翌々年に課税されるというルールになっているからなんです。
その上で、さらに、②事前に届け出が必要です。
届け出用紙に記入をして出すだけですので、そんなに大変なことはありません。
しかしながら、簡易課税を選択する=課税業者になる ということです。
その辺はよくよく検討のうえで、決断してください。
次に、スケジュール。
今回は、インボイスに絡んでの簡易課税制度の説明ですので、その辺も一緒に確認してみてください。
原則として、簡易課税制度を利用するには、『簡易課税制度選択届出書』を提出する必要があります。
適用したい年の事業年度が始まる前に、届け出をして受理してもらえば、次の事業年度から簡易課税が適用になります。
例えば、個人事業主の場合、12月31日までに届け出をすれば、翌年1月1日から適用されるって形です。
ここでインボイス制度とのかかわりですが、インボイス制度は来年(令和5年)10月1日から始まります。
ですので、個人事業主の方であれば、今年の(令和4年)の12月31日までに届け出を済ませておかないといけないのですが、実は今回だけ特例がありまして、来年(令和5年)12月31日までに届け出をすればOK!ということになっています。
「おや?令和5年12月31日までって、インボイス始まる10月1日過ぎてない?」
そうなんです。でもいいんです!
今回だけは、 ちょっと余裕がある感じなんです。
ちなみに、インボイス制度の登録(適格請求書発行事業者の登録)は、令和5年の3月31日までに申請すれば、制度開始の令和5年10月1日からスタートできますので、併せて覚えておいてください。
最後に注意点です。
これから課税業者になろうとしている方にとっては、メリットの多い簡易課税制度ですが、実はデメリットもあります。
それは、適用後2年間は継続しなければいけないということです。
「適用初年は調子が良かったけど、2年目は仕入が厳しくなったから、原則課税に戻したい。」
みたいな事態になったとしても、2年間は適用を変えることができませんので、その点は十分に検討してから利用するようにしてください!
2.経過措置
2つ目の対策は、経過措置をうまく使う方法です。
経過措置とは、インボイス制度移行に伴って、急激な変化に対応できない事業者への救済処置として、一定期間は特別に恩恵を受けられるようにする、といった制度です。
先ほどの簡易課税制度と違って、ここはサクッとみていきましょう。
①経過措置は最大で6年間
経過措置は最大6年間。
前半3年間は80%が仕入控除可能です。
後半3年間が50%となります。
そう、たとえ免税業者の請求書であったとしても、8割の消費税は仕入控除が可能なんです!
ただし、この経過措置を受けるには、その経過処置を受ける旨を記載した帳簿の保管が、相手方に必要となります。
②取引相手との交渉・理解が大切
インボイス開始後3年間は、適格事業者の請求書ではなくても、8割が控除の対象になります。
なので、取引先としっかり交渉できれば、「まあ、8割控除なら・・・」と、3年間はOKもらえるかもです!
ただし、どんなに頑張っても最大6年間で経過措置は終了です。
4年目からは50%になるので、そこでOKをしてくれる取引先はほとんどいないと思います。
また、経過措置の間は、その請求書は他の請求書と別で管理が必要なので、受領する相手側に事務負担を強いることにもなります。
なので、経過措置を利用するにしても、実質3年以内に、何かしらの手を打つことが必要になります。
どちらにしても、少し猶予が欲しいというのであれば、取引先の理解が必要不可欠だと思います。
お互い気持ちのいい関係を続けいていくうえでも、その辺に関しては、充分にコミュニケーションを図ってみて下さい。
インボイス(適格事業者)登録、しないとどうなる?
いかがだったでしょうか。
最後にまとめてみます。
まとめ
1.簡易課税制度
⇒利用できるのは、『年間売上5,000万円以下』の事業者
⇒卸売業、小売業で有利な『みなし仕入れ率』が利用できる
⇒煩雑な事務が必要ない
⇒2年間は課税制度の変更ができない
2.経過措置
⇒最大6年間、一定程度の控除
⇒初めの3年間は80%、あとの3年間は50%
⇒取引先との交渉・理解が大切
インボイス制度は、2023年(令和5年)10月1日から始まります。
それまでに、免税業者は課税事業者になるかどうかを決断しなければいけません。
業種や環境にもよりますが、より有利に利用できるものは利用してきましょう!
蛇足ですが、商売相手が消費者メインの場合は、免税事業者のままでもあまりデメリットはありませんので、簡易課税制度を利用して課税業者にならなくともいかもですよ!
ということで、今回は以上です。
誰かの何かの参考になってもらえたら嬉しいです!
宜しくお願いいたします!